「生成AIで仕事のやり方がガラッと変わった」「気づけば自分の仕事の半分がAIに置き換わっていた」――そんな話をニュースやSNSで見かける機会が、この数ヶ月で急に増えた気がする。私は普段、複数のAIエージェントに実務を任せながらいくつかの事業を回しているが、その立場から見ても「AIに仕事を奪われるかもしれない」という不安は、決して大げさな話ではないと感じている。
ただ、実際に周囲の会社員の方から相談を受けると、話はもう少し手前で止まっていることが多い。「生成AIのスキルを身につけたほうがいいのは分かっている。でも、スクールや講座は数十万円かかるものも多く、自腹で踏み切れない」というものだ。ここで見落とされがちなのが、個人が使える公的な助成金・補助金制度が、実はすでにいくつも用意されているという事実である。今日は、生成AI関連のリスキリングで実際に使える制度を、条件や金額まで含めて整理してみたい。
会社員個人が使える公的な学び直し支援は、大きく3つ
「助成金」と一口に言っても、実は主な受け皿は制度によって違う。まず全体像を押さえておくと、次の3つに整理できる。
| 制度名 | 所管 | 主な対象者 | 受講費用の補助 |
|---|---|---|---|
| 教育訓練給付金 | 厚生労働省 | 雇用保険の加入者・加入していた人 | 20%〜最大80% |
| リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業 | 経済産業省 | 在職中の会社員(雇用形態・年齢不問) | 最大70%(上限56万円) |
| 求職者支援制度 | 厚生労働省 | 離職中で雇用保険を受給できない人など | 訓練無料+月10万円の給付金 |
この記事のメインターゲットは「在職中の会社員」なので、まず教育訓練給付金とキャリアアップ支援事業の中身を詳しく見ていく。離職中の方向けの求職者支援制度は後半で簡単に触れる。なお、企業(法人)側が申請する「人材開発支援助成金」のような制度も別にあるが、これは会社が受け取る助成金であり、個人が直接申請できるものではないため今回は対象外とした。
いちばん間口が広い「教育訓練給付金」の中身
教育訓練給付金は、雇用保険に加入している(または加入していた)人が、厚生労働大臣の指定する講座を修了した際に受講費用の一部を国が負担する制度だ。訓練の中身に応じて3段階に分かれており、生成AI関連の講座がどこに位置づけられるかによって、もらえる金額が大きく変わってくる。
| 種類 | 基本の給付率(上限) | 追加支給の条件 | 最大の給付率(上限) |
|---|---|---|---|
| 一般教育訓練 | 20%(10万円) | なし | 20%(10万円) |
| 特定一般教育訓練 | 40%(20万円) | 資格取得+就職で+10%(上限5万円) | 50%(25万円) |
| 専門実践教育訓練 | 50%(年間上限40万円) | 資格取得+就職で+20%、賃金5%上昇で+10% | 80%(年間上限64万円) |
専門実践教育訓練には、これとは別に10年間の通算で192万円という支給上限も設けられている。いずれの給付も、雇用保険の加入期間などの要件を満たす必要があり、初めて利用する場合は加入期間1〜2年以上、在職中であれば加入期間3年以上といった条件がある(離職者は離職日の翌日から受講開始日までが1年以内であることも必要)。自分がどの区分に該当するかは、ハローワークの窓口か「支給要件照会」で事前に確認できる。
生成AI系の講座は対象になるのか
ここが今回いちばん確認したかったポイントだ。結論から言うと、生成AIに特化した講座であっても、経済産業大臣が認定する「第四次産業革命スキル習得講座」(通称:Reスキル講座)に指定されれば、教育訓練給付金の対象になり得る。この認定制度はAI・データサイエンス・プログラミングなど成長分野のスキルを対象にしたもので、実際に生成AIの実践活用を扱う講座がReスキル講座として新たに認定された例もある。
Reスキル講座のうち、厚生労働省の専門実践教育訓練にも指定されているものであれば、前述のとおり最大80%(年間上限64万円)まで補助が受けられる可能性がある。逆に言うと、同じ「生成AI講座」でも、この二重の指定を受けているかどうかで自己負担額はまったく変わる。講座を選ぶ段階で、厚生労働省の「教育訓練給付金 講座検索システム」で対象講座かどうかを必ず確認しておきたい。
転職まで見据えるなら「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」
「学び直しの先に転職も考えている」という人には、経済産業省が実施する「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」も選択肢に入る。この制度は、キャリアコンサルタントへの相談・リスキリング講座の受講・転職支援までを一体で提供する枠組みで、プログラミングやデータ分析、生成AI活用などの講座を対象に、受講費用の最大70%(上限56万円)が補助される。
注意したいのは対象者の条件だ。企業に雇用されている在職者であれば雇用形態や年齢を問わず利用できる一方、個人事業主・フリーランス・無職の人は対象外とされている。あくまで「会社員という立場のまま、次のキャリアに向けて学び直す」ことを想定した制度、と理解しておくとよい。公式サイト(careerup.reskilling.go.jp)から、対象講座と補助事業者を検索できる。
離職している場合は「求職者支援制度」も選択肢に
すでに退職していて雇用保険を受給できない、あるいは受給が終わってしまったという場合は、教育訓練給付金の対象外になっているケースがある。その場合に検討したいのが「求職者支援制度」だ。一定の要件を満たせば、無料の職業訓練を受けながら月10万円の職業訓練受講給付金を受け取れる仕組みで、ハローワークが窓口になっている。生成AI・IT分野の訓練コースが用意されている地域もあるので、離職中の方はハローワークで求職者支援訓練のコース一覧を確認してみてほしい。
申請までの実務フロー
制度ごとに細かい手続きは異なるが、在職中の会社員が特定一般・専門実践教育訓練を使う場合の大まかな流れは次のとおりだ。
- 厚生労働省の講座検索システムで、対象講座かどうか・給付率を確認する
- 受講開始日の2週間前までに、訓練前キャリアコンサルティングを受けてジョブ・カードの交付を受ける
- 受給資格確認の書類をハローワークに提出する
- 受講・修了後、修了証明書や領収書を添えて支給申請する
特に②の「2週間前」を過ぎると給付が受けられなくなるため、申し込みたい講座が決まったら、まず自分の雇用保険の加入状況をハローワークで確認するところから始めるのが安全だ。一般教育訓練であればこの事前手続きは不要で、修了後1か月以内の申請だけで済む。
まず今日やること
複数のAIエージェントを実務で使い倒している身としても、生成AIのスキルは「知っているかどうか」で当分の間、明確な差がつく分野だと感じている。だからこそ、費用を理由に一歩を踏み出せずにいるのはもったいない。まずは今日、自分の雇用保険の加入期間をハローワークか会社の担当部署で確認するか、厚生労働省の講座検索システムで気になる生成AI講座が指定講座に入っているかを調べてみてほしい。制度を知っているかどうかも、結局は情報の差でしかない。
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